2004-01 – 猫まんま考 – Neko Manma Kanga
Transcription Source: YKDB
猫まんま考
猫に猫まんまを食べさせることに抵抗はな い。私自身、かつおぶしとしょうゆとご飯が あれば、かなりの日数を暮らせると思う。近 所の犬は毎日、ごはんにその日の味噌汁をか けたものを食べていた記憶がある。それがい つも冷えていたのは思いやりであろう。
飼い猫の体調が悪くなったとき、担当医は、 柔らかく煮たうどんに、かつおぶしをまぶし て食べさせてやってください、と言った。人 間なら、風邪をひけばおかゆと梅干しが相場 だ。私は最大の気を使って、天然素材のうど んとかつおを張り込んだ。猫は見向きもしな かったけれど。ちょっと考えれば当だり前の ことで、私だって、調子の悪いときは食欲も ない。おかゆでも・・・・と考えるのは習慣であ り理性であり、本能に従えば、そんなシケた ものを食べずにただ寝ていたいもの。
ところが、その日本的食文化はある日くつ がえされた。イタリア、ナポリのはずれを放 したとき、レストランの裏で野良猫があさっ ていたのは、トマト味のパスタであった。猫 がいれば誰かれ構わずとっつかまえようとす る私の手を振り切って逃げた、痩せたまだら 猫の、口の端から垂れ下がっていたのは赤く 色づいたスパゲティ。食べ残しに近奇ってみ れば、ギトギトと油にまみれて、唐辛子や、 ニンニクのかけらも見える。
私は飼い猫に、いくら余ったとはいえスパ イシーで油まみれの、しかもトマト味のパス タを盛ろうとは思わない。結婚相手がイタリ ア人で、その姑からねっちりと命じられたと してもイヤだ。猫はタマネギが苦手、と聞い ているが、ニンニクはタマネギの仲間ではな いのか? 体は小さくとも血をライオンに通 ずる猫が、具はトマトだけで納得するのか?
でも、イタリア人から見れば、味噌汁ぶっ かけごはにゃ、かつおまぶしうどんは、しょ っぱいし、栄養が偏っているように見えるの かな。冷めてるのが、情に欠けて見えやしな いかしら。不味そう、と思うのかな、それと も?
私は、正直にいえば、冷えて、伸びてはい たけれど、トマト味のパスタを毎日食べる猫 をちょっとうらやましく思った。おいしそう、 と思った。おいしそう、なんだけど、猫とし てはうれしいのか?と感じたまでだ。
外国でよくしつけられた犬に、英語で、お 座り、と言って通じなかったのはかなりショ ックな出来事として、私の中にくすぶってい る。かの地で、強引に人間に合わせさせられ たものとはいえ、それを自分の文化として根 をはって生きてる動物に対して、愛情だけで は通じないものがあるんだ、と知った瞬間だ。 コトは発音の間題にとどまらない。おそらく。
振り切って逃げた、路地裏の猫は、あたし ゃ身体張ってんだよっ、と言ってるように見 えた。何が幸せか、なんて、人間に対してだ ってわかりやしない。
