2003-09 – はじめまして。犬であります。 – Hajimemashite. Inu de arimasu.

Transcription Source: YKDB

はじめまして。犬であります。

知らない犬同士が初めて会う場合、お互い の順位はひとめ見た瞬間に決まる。立場の弱 いほうの耳は瞬時に伏せられ、しっぽはしま われる。大きい方が、小さい方に服従の姿勢 をとることもある。かと思えば小さい方がキ ャンキャンけしかけて、大きい方はそれに目 もくれないこともある。必ずしも、体の大き さで優位が決まるとは限らない。

どこで判断して、相手の方が強そうとか弱 そうとか感じるのかな。なんとなく、あっち のほうがエラソー、というだけのような気が する。

人間ならば、相手の年齢が上とみると、こ ちらはとりあえずへりくだった態度に出てし まうけれど、私のような職業では、目上の人 にいちいちへりくだっていたら仕事にならな い。ミュージシャンのほとんどが私より年上 で経験も長いプロだし、外国で は相手の体のほうが2倍は大き い。だけど、初めて会ったとき、 私が耳を伏せてるわけにはいか ないのだ。

だから、誰かと会うとき私は 犬になる。

見た瞬間、相手が逃げ腰なの を構わず飛びかかってなめまわ すこともあるし、しっぽがちぎ れるほど振ってじゃれつくこと にある。耳を伏せながらもしっ ぽは半分立ってることもあるし、 あんまりにも相手の存在が大き いときは、さっさとお腹を見せ てて服従の姿勢とってから、上 目使いにすり奇ることもある。

そうやって、どっちがボスか、 どこまで自分の匂いをつけられ るか読んでいるのだ。日常生活 ならいざしらず、スタジオの中 ではプロヅューサーが一番えら い。オレは実は大したことはな いけれども、とりあえずここで はボスなのだぞ。

挨拶の言葉をかわしながら、頭のなかでは 耳が立ったり伏せられたりしている。そのと き想像上の私の犬耳は、本来あるべき顔の横 ではなく、うさぎさん役をやるときに頭の上 につける耳の位置であるところ、ツノの位置 に君臨していて、そのあたりが大変むずむず するのだ。

それと、しっぽはないから、腰のあたりが むずむずする。きゆうと縮こまると骨盤が下 がったような感じになり、しっぽをぼんぼん 振りたい気分のときは背中が弓なりに反る。 こういう気持ち、わかってくれる人はいるん だろうか。

私の社会性は、いいとこ犬並み、というこ とになるのだろう。

そして、ご飯の時間には、ライオンのメス になる。メスライオンはエサに、最初に口を つけていいのだ。ご飯が終わると猫になる。 猫は一日中寝てていいのだ。


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